錦 紹介SS
『文鳥の目の風景』

秋田みやび

 人間と同じように、式神同士にも相性があるらしい。
 それは北御門家の式神たちにも適用される。
「お前、ガキだろ? オレのがでっかいんだからな! オレの言うこと聞けよ!」
「いのりは、にしきより、さきにうまれてます」
「でもお前、おんなだろ! おんなは、おとこが守るもんなんだ!」
「でも、いのりのほうが、つよいです」
 色々と問題のある言い合いを真面目にしているのは、北御門流陰陽道の式神たちだ。十二天将・朱雀の銘を持つ錦と、十二天将・玄武の片割れである祈里。小学校高学年ほどの赤い髪の少年と、白い振り袖姿の幼稚園児ほどの幼女が真面目に言い合いしている。
 いつものことなので、契約者の北御門芹ももう介入しない。普段と同じように、夕食の用意に取り掛かっている。主人である北御門皇臥もリビングで新聞を読んでいて、慣れたものだ。
「ね、皇臥。錦くんのああいう主張、北御門家の考え方が根っこにあったりする?」
「いや。どこで刷り込みを受けたのかは俺にも謎だな。初期の教育に問題があったかもしれん。ジェンダー問題にはあまり深く踏み込みたくないから、放っておいたんだが」
「まあ、ある種の漢気と思わなくもないけど」
 小学生と幼稚園児な外見の二人だからまあ微笑ましいと言えなくもないのだが。
「一度、錦とはゆっくりと話し合いをしてみる」
 読みかけの新聞を畳もうとした視界の端で、一触即発だった錦が祈里に巴投げされていたが、まだじゃれ合いの範疇だ。
「そうね。わたしも祈里ちゃんに、あまり錦くんいじめちゃダメだって、言い聞かせてみるから」
「錦は、今まで北御門家では末っ子同然だったからな。自分よりも小さいのがやってきて、嬉しいんだ」
「兄貴風びゅーびゅーというやつね」
 芹も出汁巻き卵を焼きながら納得したように頷いた。その流れの中で、皇臥はふっと表情を笑みに緩ませる。新聞紙で隠せなかった。
「何?」
「いや、何というかな」
 ややおかしそうに浮かんだ笑みを噛み殺し、皇臥は平静を装っているが、唇の端はまだ微妙に緩んでいた。
「まるで、子供の教育問題で悩む夫婦のようだと思ってな」
「ばか?」
 芹はまだ実質大学生。北御門皇臥とは、契約結婚中。子供を持つというのは全く現実感がない。ないのに……ちょっと赤くなったのを自覚したので、出し巻き卵に集中するふりをして、自分の頬を軽くつねっておいた。
 何を意識してるのか、と。
 芹が背を向けたリビングの真ん中では、動物姿に変化してのミニ式神大戦・小さな白蛇VS赤茶の文鳥が終わっていたらしい。白蛇がぐったりとした文鳥を咥えて戦利品のように意気揚々と運ぼうとしている。それが視界を過って、皇臥が上ずった声を上げた。
「祈里ーっ!」
「ちょっと待って祈里ちゃん! それはだめ! グロ画像直前!」
 朱雀姿で負けた錦を、祈里が今にも丸呑みにしてしまいそうで、慌てて芹も二人を引き離した。
「あ、そだ、皇臥。わたし、離婚する時には、祈里ちゃんと護里ちゃんはつれていくから」
「それは断固阻止するぞ、芹。護里と祈里は北御門家の財産だからな」
「だって、錦くんと仲悪いし。祈里ちゃんはわたしの契約式神だし」
「護里と祈里の意思というものが……って、ああああ、ダメだ、こいつら絶対俺より芹についていくな!」
 ぼんやりとかすむ意識の中で「親権を争う夫婦みてぇ」と蛇の涎にまみれた朱雀は思ったが、口には出さない。
 そのいつもの一騒動で、夕食の出汁巻き卵はやけに焦げていたという。
 リクエストを出した姑・史緒佳がしばしぶつぶつとお小言を言っていたが、夫婦と式神たちは揃ってスルーした。
 ──そんなところも似た者夫婦であると文鳥はこっそりと思っている。