珠 紹介SS
『虎の目の風景』

秋田みやび

 自分は北御門家の式神。白虎の銘を持つ者、名は珠。
“掌中の珠”って言葉からの大切なモノって意味だそうだが、後付けだ。
 まだ子供だった頃の大将が自分を見上げて「でかいねこだ」っつった瞬間に、トラかシロかタマのどれかになる運命だったのだ。
 その大将も、今や成長し北御門流陰陽道28代目当主として、北御門皇臥を名乗っている。
 世間的には実に眉目秀麗、家柄良しのお買い得物件。それを利用してつい先ごろ色々とだまくらかして無事嫁も迎え、順風満帆だ。表向き。
 その帆を張った船が限りなく難破船であることに目をつぶればだが。
「で。自分らを継ぐ次代はいつ誕生予定で?」
 座卓に置いたパソコンで呪符の通販に勤しんでいた28代目が、盛大に呼吸器に流しこんだ茶を逆流させた。きたねえ。
「珠、お前そういう話題を芹の前で口にするなよ。セクハラで訴えられたらまず負ける」
 この時代、なかなかに話題選びも難しい。
「まだ奥方との間の共通の話題は、大将のことぐらいなんで。過去を話題にすると失敗談とかしかねえんす」
「なぜそこで失敗談だ。もっとアピール性のある話題を持ち出せ」
「つがいへのアピールはてめえでお願いしたいっす」
「くそ、こんな時だけ正論を吐きやがる」
「で。未来の話題になるってぇと自然に……」
「じゃあ、現在の話をすればいいんじゃないの?」
 その言葉と共に襖が大きく開け放たれ、若い娘の仁王立ちが現れた。
 北御門芹。大将の奥方だ。
「三船菜園の温室で、上下ばらばらの幽霊が出るって相談が電話で入ったよ。15時来訪予定だから、ちゃんと着替えて相談に乗ってあげてね」
 北御門家最強の嫁は、生活全般だけでなく大将のマネージメント、経理状況も掌握しつつある。
「現在の生活を整えないと、未来の展望もなにもないからね」
 ごもっとも。できればもう少し大将に甘く接してやってほしいもんだが。
 北御門家の陰陽師の花嫁は、順調に最強の嫁に成長しつつある。